HDIなどに影響力をもつケイパビリティ・アプローチの主要な提唱者であるA・センが、自身の開発構想を論じた本。
主たる命題は『自由としての開発』として開発を捉えるべきである、というもの。かなり影響力がある議論ではある(評者は批判的ではあるが)。
訳題は、『自由と経済開発』となっているが、開発の形は経済(一般的に経済的とされるもの)によるものに限らず、さらに開発を自由でみよう、というのが趣旨なので、訳題が不適切であろう(これは訳者の責任を問うてよいものであるかは出版上の都合などもあるだろうし分からない)。
また、訳があまりにひどい。少なくとも、訳語選択、誤訳の多さには難がある。
まず訳語について。哲学・倫理学・政治理論系の議論を知らない訳者なのだろう。例えばロールズのprimary goodsが「基本的なもの」と訳され、何が何だかわからない。
さらに誤訳と悪訳のオンパレード。誤訳は論旨を間違って把握させるレヴェルのものである。例えば、It shares with utilitarianism a consequentialist approachが、「(私のこの主張は)結果論者と功利主義を共有する」という訳がなされている。
もちろん、センの開発論を原著が出た翌年に訳し、読者にコミットしやすくした功績はあるが、1哲学系の研究者からフィードバックを得られなかったのか(新聞記者の訳者は東大法学政治学院の客員教授をされていたということである)、2研究者でないのであるし、共訳者などをつけ、訳のチェックをきちんとすべきであったのでは、などと思ってしまう。
もう過ぎたことではあるが、このような訳の問題にどう取り組むか、出版業界・学術界においてどのように取り組めばよいかの立脚点にしたらよいだろうとは思う。具体的にどうすればよいのかは評者にはどうにもわからないが。。。
読者は、英語の原典を読めそうであれば参照するか、最近はセンの開発系の議論の紹介論文も日本語でたくさん出ているので、そちらを参照すればきっとよいだろう。