この書は2005年までの国際人権条約と国際人権法、人道法に関連する宣言の大部分(重要条約は全て)を収録している。それに関連する日本の国内法も収録されていて、現状把握と法の解釈の参考となる。各条約と宣言は国連による普遍的保障に関するものを筆頭に、欧州評議会、米州機構、アフリカ連合の地域的保障に関する条約が体系的に網羅され、さらに差別、人身の自由、国際、難民、労働権、環境と発展、そして国際人道法、個人通達、実施措置とテーマごとに関連条約が分類され、原則その全文の邦訳が収録されている。
世界人権宣言を定義に、欧州人権条約、欧州社会憲章や米州人権宣言を証明に、それらの影響下に制定された国際人権規約(社会権、自由権規約)が定理をなし、他の人権条約が公理系を為すとも考えられる法の数学的体系と相関性が認められる。そしてその厳密さゆえに、第3世代の『新しい人権』も乱用や誤解無く演繹的に導き出せる法的正義となることが、(最終的には人権裁判所や国連各委員会の判例も法源となるが)理解できるであろう。さらに各組織の人権裁判所の法的効力が、国連憲章に由来する国際法に関する主権の制約による各国の連帯を根拠とする為、地域の安全保障に重要な役割を果たしている事実も理解できる。ただしその複雑さゆえに他の国際人権法の入門書による基礎理論理解と、訳文の正確さに限度があるので(英、仏、西語の)正文の参照が不可欠ではある。これは困難で理想論と思われるかも知れない。しかし、欧州評議会や米州機関加盟国の現状とアフリカ連合の対話の重要性を直視すれば、人権条約に(国際法廷、選択議定所により)法的効力を持たせて国際社会と連帯することが個人のみならず、国や世界の安全保障に重要であることを最重要点として、現状に屈せず断言する必要があると考える。
しかし2005年以降の条約、例えば、障害者権利条約、強制失踪防止条約、性的指向と性自認に関する宣言と決議、さらに2006年創設の国際人権理事会に関する法が収録されていないことは日本の国民や法学会にとって大きな問題で、関係者の方々には早急に改訂版を出して頂きたいです。包括的に国際人権法、人道法に関する条約、宣言が収録されている点で他に例のない名著ですが、新たなな増刊、新版がないため星を一つ下げました。この書と関連書籍が法学者だけの独占物でなく、全ての人、特に人権問題に携わる全ての関係者の座右の書となることを切に願います。